“沖縄戦の記憶” ひ孫が巡る…「こんなことまでしなくては生きてはいけないのか」手記に残る決死の逃避行

戦後80年となる今年、日本テレビでは「いまを、戦前にさせない」をテーマに特集をお伝えしています。今回は、沖縄の地上戦を生き抜いた家族と、その詳細を書き残した手記をもとに、ひ孫の高校生が戦争の記憶をたどります。 ■喜省さんが手記に残した「沖縄戦」 ひ孫の寧々さんが“記憶をたどる”旅に 沖縄の戦場を生き抜いたある家族の手記。書いたのは与儀喜省さん、3年前に亡くなりました。沖縄の地上戦では、県民の4人に1人が犠牲になりました。そんな中、生きるために必死で逃げた記録です。 ——喜省さんの手記より 「この手記は、自分及び自分一家の戦禍をくぐってきた尊い記録である。子孫に残しておきたいと思う」 手記は、喜省さんの娘である和子さんが持っていました。 娘・和子さん 「ある日突然『これを持っていて』と言われ渡されて。あぁ、こういうのがあるんだと」 手記を読んでいるのは、都内の高校に通っているひ孫の村上寧々さん(16)と幼なじみの陸颯大郎さん(16)です。    ひ孫・寧々さん 「(喜省さんが)避難生活で寝泊まりしていた場所やどんな道を通ってたのかとかを見てみたい」 颯大郎さんは、生前の喜省さんと会った際のある言葉が忘れられません。 寧々さんの幼なじみ・颯大郎さん 「“忘れちゃいけないよ”って…」 インターナショナルスクールに通う颯大郎さんは、様々な国の先生や友人と過ごす学校生活が「戦争」や「平和」について考えるきっかけになっています。 颯大郎さん 「(戦争は)想像しがたいもので、同じようなことは経験していないけど、(喜省さんが)どういう気持ちだったのか、どんな感じだったのか知りたい」 2人は夏休みに、祖母の和子さんと戦争の記憶をたどる旅に行くことにしました。 ■始まりは空襲 両親を連れ逃避行“我が家も見納めか…” 喜省さんは当時、学校の教師。妻と父親を連れ3人で、自宅がある南部から北部の山岳地帯まで逃げたのです。 寧々さんと颯大郎さんはまず、喜省さんの自宅があった沖縄・糸満市を訪ねました。 寧々さん、颯大郎さん 「こんにちは」 喜省さんのいとこ・与儀喜雄さんです。 颯大郎さん 「手記でわからないことや知らないことが結構あって」 逃避行の始まりは80年前の3月、その日は空襲があったと記されています。 ——喜省さんの手記より 「3月24日、ゴウゴウと(中略)見慣れたグラマン機が群れをなして飛んでいる」 喜省さんのいとこ・喜雄さん 「ここ(この地区)にいれば間違いなく天国に行っていた。この辺には、たくさんの遺骨があったから」 この地区では、多くの住民が避難せず、およそ4割が亡くなりました。 当時は「日本軍は優勢だ」と伝えられていたからです。しかし、喜省さんは・・・ ——喜省さんの手記より 「イヤ、明日はどんなことが起こるか知れない。やがては戦場となるであろう。我が村、我が家を後にして国頭へと向かう。これが見納めかと思う。さすがに心の残る思いがする」 喜雄さん 「ここに駐屯している兵隊が、『ここにいたら危ないから行け』と指示したということですね」 喜省さんの家に井戸を借りに来ていた日本兵が、「北へ逃げるように」と助言してくれたのです。 寧々さん 「日本兵に良くしていたから助言ももらえたし、それが、おじいちゃんを助けたのかなって」 颯大郎さん 「ひとつでも行動が違っていたら、寧々ちゃんもいない」 ■闇の中での“寝泊まり” 米軍が沖縄上陸で地上戦へ 喜省さんのお墓参りを終えると、足取りを追って、沖縄中部の普天間へ。喜省さんたちは、爆撃を避けるため夜の間に歩いて移動、沖縄・宜野湾市の普天満宮に着きました。 ——喜省さんの手記より 「高射砲の音は、相変わらず激しい。危険だからというので警防団に止められて付近の自然壕にはいる」 喜省さんが避難した“自然壕(ごう)”とは何なのか——。実は社殿の裏には巨大な鍾乳洞があるのです。当時は200人近くがここに避難していました。 普天満宮・田場さん 「防空壕として使われていたようですね」 ——喜省さんの手記より 「壕内は全くの闇の中だ。昨夜までの寝不足を取り返さんと横になったが、寝られたものではない」 颯大郎さん 「暗くて湿度が高くて、過ごしづらい中で過ごしたんだと思った」 寧々さん 「寝るの怖いんじゃないかな」 壕の中で米軍が迫っていると噂を聞き、数時間休むと再び北へ向かいました。6日後、米軍が中部から上陸。それ以降、住民は北へ逃げられず、残った人々は悲惨な地上戦に巻き込まれていきます。    颯大郎さん 「(逃げるのが)遅れてしまうと、もう…」 田場さん 「そうですね、大変だったでしょうね。逃げられなかった、北には。その1日1日で…」 颯大郎さん 「(運命が)全部変わってしまう…」 田場さん 「変わったでしょうね」 ■残された「証言テープ」山に潜伏、食料なく猛毒のソテツまで食べ… 喜省さん一家は4日かけて北部の山岳地帯にたどり着き、およそ3か月、山に潜むことになります。どんな潜伏生活だったのか、喜省さん本人が沖縄戦について証言しているテープが残されていました。家族も知らない音声、そこで語られていたことは…。     ——喜省さんの証言テープ 「食べるものがないからおばあちゃんと母の着物があったからそれと交換して、芋と交換して、最後はなくなって、いよいよソテツだということで」 沖縄に自生する「ソテツ」。 実は… 颯大郎さん 「ソテツを食べたって…どのように食べたのか?」 沖縄国際大学非常勤講師・川満彰さん 「ソテツは猛毒なんですよ。幹も実もそうなんだけど、むいて1週間くらい干さないといけない。『ソテツがあった!』って言って(すぐ)食べられないんですよ」 実際に潜伏した場所に行くと… 川満さん 「左側もね」 寧々さん 「おおっ…!」 喜省さんは、山を何度も往復し家族のための食料を集めました。 ■「生きねばならない」畑から芋を…餓死寸前で戦争は終結 手記には、地元の人は食べ物を持っていても避難民に分けてくれなかったと書かれています。学校の教師だった喜省さんは… ——喜省さんの手記より 「目の前にまさに餓死に瀕せんとするものを見ても、救うということをしないという様な事となっては、今までの学校教育で何を教育してきたか」 それでも食料は見つからず、ついに父と2人で他人の畑から芋を盗むことになります。 ——喜省さんの手記より 「結局生きねばならない。無断ででも取ってこなければならないのだ。こんなことまでしなくては生きてはいけないのか」 さらに、味方であるはずの日本兵からも、こんな仕打ちが…。 ——喜省さんの手記より 「米軍に何の抵抗もできないで逃げかくれをしている兵が、軍の命令だと言ってかけがえのない住民の食料や家畜を徴発していく。軍の名を借りた公の泥棒である」 川満さん 「(日本の)敗残兵もたくさん出てきて、ただでもない食料を(敗残兵に)取られてしまう。目の前の住民を襲うことが当たり前のように起こっていく。戦争は始まったらアウト」 ■戦争を生き延びた喜省さん「もう教壇には立つまい」 旅を終え、ひ孫は… 3か月に及ぶ潜伏。餓死する寸前で、戦争は終わりました。一家は、米軍に投降します。 川満さん 「ここで最後です。(投降後)ここにおじいちゃんが暮らしていたって」 戦争を生き延びた喜省さんは、教師として思うことがありました。 ——喜省さんの手記より 「子供たちを戦場に送ったことを思うと、二度と教壇に立つ信念も勇気もなくなって、もう教壇には立つまい」 一方、旅を終えた2人は… 颯大郎さん 「おじいさんの『忘れないでね』の意味が少しわかった。戦争の被害や悪い部分を忘れずに、自分ができることをやっていきたい」 寧々さん 「(手記を)読んだときは想像できなかったけど、私はおじいちゃんが生きていなかったらいなかったので、頑張って生きてくれたことが…本当に感謝しかないと思った」    喜省さんの手記はこんな言葉で締めくくられています。 ——喜省さんの手記より 「我々は、戦争は嫌だ。それが外部からの強制でも嫌だ。明るい太陽の下、永久の平和な世界をつくりたいとしみじみ思う」 (※8月14日放送『news every.』より)

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