「転職って、もっと自信がある人がするものだと思っていました」 そう語るのは、30代前半で初めての転職活動に挑んだAさん。これまでの経験や転職活動をすること自体に自信が持てず、不安を抱えながらも一歩を踏み出したAさんが、どのようにして「納得の転職」を実現したのか。 その過程には、自己理解を深め、価値観を言語化していくプロセスがありました。 「正直キャリアに自信はないけれど、自分は転職できるのだろうか」 「自分のこれまでの経験に自信が持てないまま転職活動を進めていいのだろうか」 このような相談はよく寄せられています。自己理解を進めていくことで、自身の強みが明らかになっていくことが多く、それが自信をつけるきっかけになることも。 リクルートエージェントでキャリアアドバイザーをつとめる西山知壱が解説します。 転職活動をしてみてから、転職するか考えてみる方法も 30代前半のAさんが転職を考え始めたのは、勤務先での仕事が期間満了に伴い、数か月後にで終了することがきっかけでした。 期間満了後には新たな部署に異動することが決まっていたものの、別の部署でまた新たな仕事をすること、今後のキャリアの見通しに不安を抱き、転職という選択肢がぼんやりと頭に浮かんだそうです。 Aさんは小売業で店舗勤務、棚卸しなどの仕事を経て、日用品の物流・在庫管理を担当していました。ただ、アルバイトからそのまま正社員に登用されたこともあり、これまで一般的な就職活動の経験がなく、面接もほとんど未経験。転職サイトを見ても、どこから手をつけていいのか分からず、「一人で転職活動をするのは無理かもしれない」と感じていました。 そんな中で、Aさんは「誰かに相談してみよう」と思い立ち、転職エージェントに相談してみることに。面談では「面接経験がほとんどない」「転職活動が不安」と正直に打ち明けてくださいました。また、こんな会話もありました。 「異動後の仕事や今後のキャリアに不安はあるものの、今の会社は気に入っている部分も多いので、転職すべきかどうか迷っているんです」(Aさん) 「もやもやしているのであれば、一度転職活動をしてみて、内定を得てから転職するかどうかを考えてはいかがですか」(私=キャリアアドバイザー・西山知壱) 「そんなのアリなんですか?応募して内定をもらったら、その会社に入社するべきなのでは...?」(Aさん) 「そんなことはありません。『転職活動』と『転職』は別物です。転職活動をしてみた結果、今の会社がよいと判断すれば、現職で頑張るという選択肢もあります」(私=キャリアアドバイザー・西山知壱) Aさんにはその考え方・動き方に驚いたようでしたが、Aさんと同じように考えている方は多くいるなと感じています。転職活動をして内定をもらったからといって、必ず入社しなくてはいけないということはありません。 Aさんは、まずはやってみるということで活動をスタートしました。 完璧を求めすぎず、一歩を踏み出してみる--その姿勢が、Aさんの転職活動のスタート地点となりました。 自分の「強み」や「価値観」に気づく 転職活動を始めた当初、Aさんは「自分の強みが分からない」と感じていました。現職では定年まで働くつもりでいたため、「自分が何を大切にしているのか」「どんな価値を提供できるのか」といった視点でキャリアを振り返ったことがなかったのです。 そこで行ったのが、これまでの仕事の「棚卸し」でした。 キャリアアドバイザーと対話をしていく中で、日用品の物流・在庫管理という業務の中にも、Aさんが積み重ねてきた工夫や責任感の強さ、他部署との連携力といった「強み」が確かに存在していることがわかりました。 これらの強みは、どんな業種や職種でも評価される強みでもあります。これらの経験が生かせ、かつ興味の持てる企業に複数社応募し、面接でもアピールしていきました。 「自分には何もないと思っていたけれど、話していくうちに『あ、これって強みなんだ』と気づけたんです」 Aさんはそう話していました。 さらに、面接を重ね比較していく中で、Aさんは「自分がどんな働き方を望んでいるのか」「どんな環境で力を発揮できるのか」といった「価値観」にも気づいていきました。 現職もいい企業だと感じられていたAさん。「どんなところが気に入っているのか」の要素を分解した結果、「さまざまなバックグラウンドを持つ人々がいて、一人ひとりが公平に尊重されている」風土に魅力を感じていることが言語化されました。 この価値観に基づいてさらに企業を探し、面接でもそのような企業かどうかを確認していったのです。 「今の会社以外では評価されないのでは?」不安を乗り越えて 転職活動を進める中で、Aさんはある企業から内定を獲得。これまでの経験を活かせるECの物流・在庫管理職で、リモートワーク制度も整っており、将来的に地元に戻ることも視野に入れていたAさんにとって、理想的な環境でした。 しかし、いざ現職に退職の意思を伝えると、マネージャーから引き止められたといいます。 「正直、心苦しかったです。でも、同僚から"30代前半までずっと頑張って働いてきたんだから、チャレンジしてもいいんじゃない"と声をかけてもらって、前向きな気持ちを取り戻せました」(Aさん) 最終面接後には、配属予定チームのメンバーと直接話す機会があり、「ここで一緒に働きたい」と強く感じたAさん。「今の会社以外では評価されないのでは?」という不安も、企業からのオファーや周囲の言葉を通じて、少しずつ払拭されていったそうです。 「全部を一人で抱え込まなくていい」 Aさんが今回の転職活動を通じて得た最大の学びは、「全部を一人で抱え込まなくていい」ということでした。 「転職するかどうかは最終的には自分で決めること。でも、『自分の市場価値を知りたい』『自信をつけたい』と思うなら、誰かと話してみるのもアリだと思います」(Aさん) 年収は約50万円ダウンしましたが、企業にはリモートワーク制度があり、生活の変化に応じて働き方を柔軟に変えられる可能性があることが、入社の決め手となりました。 そして、「自分の強みや価値観に気づけたこと」「納得感のある選択ができたこと」が、Aさんにとっての大きな成果だったといいます。 「最初は本当に不安でした。でも、まずは始めてみたことで、少しずつ自分のことが分かってきた。今は、"あのとき一歩踏み出してよかった"と思っています」(Aさん) Aさんのように、自信がないまま転職活動を始める人は少なくありません。だからこそ、完璧を求めすぎず、まずは誰かに相談してみること。自分のことを言葉にしてみること。その積み重ねが、納得のいく転職につながっていくのかもしれません。 【プロフィール】 キャリアアドバイザー 西山知壱/新卒では他社へ入社し、リクルート(現インディードリクルートパートナーズ)に転職。やりたいことが明確でなかった頃にお世話になったキャリアアドバイザーとの出会いをきっかけに、「人の人生を好転させるような気づきを提供したい」との思いから入社を決意。現在は求職者一人ひとりに寄り添い、キャリア選択をサポートしている。