選挙で負けた陣営はトップが責任をとって退く、が常識のように思われてきたが、石破茂首相については、そうした声が上がるのは自民党内だけで一般の有権者には広がっていない。臨床心理士の岡村美奈さんが、なぜこれまでの”当たり前”が通用しないのかについて分析した。 【写真】国民世論と乖離している…自由民主党 * * * 石破政権の支持率が急上昇している。今週に入り、各新聞社などによる世論調査の結果が出てきたが、どこも軒並み内閣の支持率はアップ、3割台を回復した。参院選の結果を受け石破首相が辞任するべきだと「思う」より、「必要ない」とする回答が増加。たとえそれが他に適当な首相候補がいないから、政権交代できる党がないからという消極的支持であっても、”石破おろし”の行く手を阻んでいる。支持率はなぜ急上昇したのか、各メディアはその分析と解説に熱心だ。 去年の衆院選、今年の都議選、そして今年の参院選。3度の選挙にすべて負けた石破首相がなぜ辞任しないのか。自民党の議員たちによる党内世論からすればそうだろう。選挙で負ければただの人といわれてしまうのが議員たちだ。次の選挙が間近に想定されている以上、石破おろしをしたくなる気持ちもわからなくはない。 だが国民世論はそう思っていない。世論調査の結果からしても、国政選挙で敗北したのは、すべて石破首相のせいというより自民党自体の問題と捉えている人が増えていることがわかる。 選挙の敗北は党の問題と考える人たちにとって、自民党議員による石破おろしは、石破首相を生贄として差し出す自民党の責任転嫁に映るのではないだろうか。 責任転嫁は自分の罪や責任、失敗などを他人に押し付け、なすりつけること、自己保身の最たるものだ。もし石破首相が自民党の中で重要視され、一強と称された安倍政権で重用され、次々と主要ポストについていたなら、石破おろしに反対する国民は少なかったかもしれない。だが石破首相は党内政治に強くなかった。首相就任後も党内に味方は少ないと報じられていた。党内で石破首相の影響力は弱かった。それだけに、石破おろしの波が活発になるほど党の責任転嫁に見えてくるのだ。 石破首相に辞任しろと叫ぶ議員たちの中には、旧安倍派で裏金問題が発覚したり、旧統一教会問題で叩かれた議員たちがいる。石破政権を支持する国民からすれば、”どの口がいう?”と言いたくなるような現状が起きている。こういう議員たちは「自己奉仕バイアス」が高いのかもしれない。成功した時は自分の能力や努力のおかげになり、問題が起きたり失敗したりしたときは他人のせいや環境のせいにするという心理傾向をいう。人には自分に有利なように物事をとらえやすいという傾向があるが、このバイアスによってこれら議員たちは選挙に負けたという事実だけを見て、石破首相辞任と騒ぐのだろう。 自民党という党は、選挙の敗北をどこまで党の問題と認識しているのだろうか。8月26日、自民党は「米は買ったことがない」「売るほどある」という失言で5月に農林水産大臣を更迭された江藤拓衆院議員が、新組織である「農業構造転換推進委員会」の委員長に就任することを決めた。米問題で農相を辞任してたった3か月の議員に、農業の新組織の委員長を任せてしまう自民党って、いったいどうなっているのか。これまでと何ら変わっていないのか、それほど人材がいないのか。それとも自民党農林族を牛耳る重鎮らの力が強いのだろうか。江藤氏の委員長就任は、自民党という党の体質が変わっていないこと、変わる気がないこと、国民感情を理解できないこと、ないがしろにすることを国民に伝えたようなものだ。 いまや石破おろしは、党内世論と国民世論のギャップの象徴のようだ。石破おろしが続けば続くほどギャップの幅は広がり、石破首相の支持率が上がる。やりすぎは自分の足を引っ張りかねない状況に、石破おろしを叫ぶ議員たちは、さてこれからどうするのだろう。