8月28日、赤澤亮正経済再生担当大臣が、この日から予定していたアメリカへの10回目の訪問を取りやめたことが明かされた。 「赤澤大臣は、30日までの日程で訪米し、日米間の関税措置について、米側の閣僚らと協議する予定でした。前日の会見では、今回の訪米で80兆円規模の対米投資について日米共同文書を発表し、自動車関税を引き下げるための大統領令の発出につなげたいとの考えを示していました。 訪米を取りやめた理由は、『事務的に調整すべき点があることが判明したため』ですが、結果体に “ドタキャン” したことで、『行っても何の成果もないからだろう』など、さまざまな憶測がささやかれています」(政治部記者) 関税をめぐる日米交渉はまたしても暗礁に乗り上げた形だが、前駐オーストラリア大使で外交評論家の山上信吾氏は、この間の日本側の交渉を「情けない」と一言で喝破する。 「私は外務省に40年いて、北米二課長や経済局長を歴任し、アメリカとの貿易交渉に当たってきましたが、その私からすると、『なんでこんな情けない交渉になっちゃうの?』と。貿易交渉はケンカです。そもそも、赤澤氏はアメリカとケンカする役回りに向いていない」(以下、「」内は山上氏) 山上氏が辛辣に批判するには、3つの理由があった。 「1つめは交渉姿勢です。要するに、『トランプ大統領を怒らせちゃいけないという姿勢』が、そこここに出ているわけですよ。そもそも石破茂首相は、2月の日米首脳会談で関税の問題を持ち出さなかった。本当は首相がトランプと渡り合わなければいけないのに、その後はずっと、外交経験の乏しい赤澤大臣に丸投げしてきました。 2つめは、交渉戦術。日本はアメリカを喜ばせるような “アメ” しか差し出していないんですよ。アメリカ製の自動車を買いますとか、アメリカ産のコメを買いますとかね。交渉をまとめるには、“アメ” と “ムチ” の両方必要なんです」 山上氏によれば、本来使えたはずの “ムチ” はいくつかあったという。 「たとえばWHOへの提訴。アメリカの関税引き上げは、明らかにWHOルール違反ですから、堂々と提訴すべきだった。さらに、日本も関税を引き上げる対抗措置をちらつかせるべきだった。アメリカが、日本の自動車関税を引き上げるなら、日本が輸入しているアメリカ産の牛肉や豚肉の関税を引き上げざるを得ないと言えばよかったんです」 実際、山上氏が外務省経済局長だった2019年、日米貿易協定が結ばれている。これはアメリカが日本車に対する自動車関税を2.5%に据え置く代わりに、アメリカ産の輸入牛肉の関税を引き下げるという内容だった。 「ところが、今になって、向こうだけ勝手に自動車関税を引き上げることになった。約束違反ですから、それなら『2019年の協定をチャラにして、アメリカ産の牛肉の輸入関税を引き上げますよ』と出ればいい。これくらいのタンカを切るのは貿易交渉では普通のことです。事ほど左様に、貿易戦での交渉の戦術も間違っているんです」 そして3つめに、交渉の結果だ。 「アメリカはとにかく日本に金を出させようとしている。ところが、アメリカが決めるプロジェクトに日本は口を出せない。そして利益があがったら、その9割はアメリカに落ちる、とまで言っている。 こんな出血大サービスはあり得ません。第三国の外交官からは、『日本はなんでこんな馬鹿な合意をしたんだ』『オレたちが迷惑する』とまで言われましたよ」 さらに、合意文書という “紙” がないのが致命的だという。ようやく80兆円の投資について日米合意の共同文書を作成することになったが、それでも「遅きに失している」と山上氏は厳しい。 「大きな問題は、文書が投資に関してだけという点です。アメリカが文書を作るのは、日本からの投資という “果実” を取りたいからです。日本が取るべきは、関税をこれ以上勝手に引き上げないという合意ですが、それは文書には書かれません。 加えて、『関税の引き上げは、トランプ政権の間だけの時限的なものだ』という文書も要求すべきです。日本が取りたいものについてはいっさい文書を作ってもらえず、向こうの取りたいものだけ文書にする。愚の骨頂ですよ」 こうした散々な交渉の、最前線にいたのが赤澤大臣だ。その責任は大きい。 「彼は、任務がまったく終わっていない段階から『任務完了』とぬか喜びしていました。トランプ大統領と面会したときに、自分を『格下も格下』と卑下してみせた。アメリカ側にとっては、まさに赤子の手をひねるような、楽な交渉だったでしょうね」 山上氏が、ここまで怒りをあらわにするのは別の理由もある。じつは赤澤氏とは東大法学部時代の同級生なのだ。 「もっとも、彼が同級と知ったのは最近のことです。東大法学部の学生は600人ほどですから、4年間も一緒にいると、どんな奴がいるかぐらいはわかるんですが、東大時代は名前を聞いたこともない。当時はそれぐらい、目立たない存在でした」 政治家になってからのキャリアも、外交交渉のプロとは決して言えないという。 「本人は、日米航空協定の交渉をやった経験があると吹聴していますが、今回のような貿易交渉とは質も中身も違います。航空協定なら運輸省(当時)だけで決められても、貿易交渉は、経産省、外務省、農水省、場合によっては財務省など、霞が関全般を束ねていかなきゃいけないわけです。 しかも、相手はアメリカです。今回の日本の “外交敗戦” は、そういう経験がない人物が交渉したことによる、当然の結果だと思いますね」 赤澤大臣には「格下」などと卑下せず、もう一度奮起していただきたいものだが——。