「ホラーブーム」は100年前から続いていた…!「怪談×謎解き」ジャンルの始祖・超大物作家の正体とは【朝宮運河が読み解く】

空前のホラーブームといわれる令和の現在。その礎となる大衆文化は100年前に開花したと言われています。100年前の日本や世界ではどんな怖い話が読まれていたのでしょうか。 この記事はこの夏2冊のホラーブックガイドを上梓した朝宮運河さんの著書『怖い話名著88 乱歩、キングからモキュメンタリーまで』より抜粋してお伝えします。 怪談黄金時代 1926年は昭和元年。つまり今年(2025年)は昭和100年の年にあたる。100年という区切りで怖い話の歴史を振り返るとき、そのトップバッターを務めるのは誰かといえば、江戸川乱歩になるだろう。 乱歩は1894年、三重県の名張出身。さまざまな職業を経験した後、1923年に短編「二銭銅貨」でデビューした。探偵小説への情熱に燃える乱歩は、数年のうちに「赤い部屋」「人間椅子」など、今も読み継がれる傑作を次々に発表。まさに100年前の怖い話の象徴的存在だった。 では乱歩登場以前、日本ではどんな怖い話が書かれていたのか。江戸時代が終わり、西欧文明を取り入れた明治時代が始まると、幽霊や妖怪の出てくる怪談は、古くさいものとして隅に追いやられていった。しかし人の心から、怖い話を求める気持ちが消えることはなく、明治40(1907)年頃になると 怪談ブームが巻き起こる。 その中心にいたのが「草迷宮」「天守物語」など妖しく美しい小説・戯曲で知られる泉鏡花だ。鏡花の周囲にはお化けを愛する同好の文化人が集い、たびたび怪談会が催された。こうした動きと共鳴するように、明治末から大正にかけての十数年の間に、怪奇幻想文学の傑作が相次いで生まれる。 たとえば小泉八雲の『怪談』、夏目漱石の『夢十夜』、芥川龍之介の「妖婆」など。乱歩のデビュー前から日本では、怖い話の黄金期が始まっており、いわば乱歩の登場を待つ舞台は整っていたのである。 探偵小説の隆盛と乱歩の登場 現代の日本でホラー小説が盛り上がっているように、100年前の出版界では、探偵小説が新たな大衆小説として人気を博していた。探偵小説とは今日でいうミステリのこと。もっとも当時の探偵小説は、ミステリだけでなく、ホラーやSF、幻想小説や冒険小説などを包含する“ミステリっぽければなんでもあり”の懐の深いジャンルだった。 当時、探偵小説の牙城として知られていたのが雑誌「新青年」(1920年創刊)。そして1923年、ひとりの作家が短編「二銭銅貨」をひっさげてこの雑誌に登場した。後に日本ミステリの父と呼ばれることになる江戸川乱歩だ。乱歩は優れた作品を相次いで発表。たちまち日本の探偵小説界を代表するベストセラー作家になった。 第二次世界大戦がはじまる前の1920年代、30年代は、世界的にも探偵小説の黄金時代だった(年表:『怖い話名著88 乱歩、キングからモキュメンタリ—まで』より) その中には謎と推理の面白さを描いた本格ミステリだけでなく、心理的・肉体的な恐怖を描いたホラーも数多くあった。乱歩は、日本ミステリの父と呼ばれているが、実は日本ホラーの先駆者でもあったのである。 海の向こうの狂騒の20年代 一方、海の向こうアメリカでは都会の若者たちがジャズとダンスに熱中する、いわゆる<狂騒の20年代>と呼ばれる時代が訪れる。第一次大戦後の好景気を背景にさまざまな大衆文化が花開いたこの時代、恐怖文学ファンにとっては特別な意味をもつ雑誌が創刊されている。「ウィアード・テイルズ」(1923年創刊)だ。 当時数多く刊行されていたパルプマガジン(安価な紙で刷られた大衆娯楽雑誌)の一誌であった「ウィアード・テイルズ」の最大の特徴は、その名のとおりweird(奇妙、風変わり)な小説を中心に据えたこと。このホラー&ファンタジーの専門誌では、後にホラー小説史に名を遺す錚々たる才人が活躍した。 今なお世界を魅了する〈クトゥルー神話〉などを著した怪奇小説の巨匠H・P・ラヴクラフト、『サイコ』(1959アメリカ)のロバート・ブロック、『何かが道をやってくる』(1962アメリカ)のレイ・ ブラッドベリなど。 「ウィアード・テイルズ」に発表された作品はモダンでエネルギッシュ、個性とアイデアに溢れた作品で、まさにアメリカンホラーの逸品ぞろいだった。これらの作品が、後のホラー小説だけでなく、大衆文化に与えた影響は計り知れない。 …つづく<感染系ホラー『リング』の貞子がウイルスのように…朝宮運河が語る「90年代Jホラー」の黄金時代>では、日本のホラー小説の転換点となった1990年代Jホラーブームについて解説します。 【つづきを読む】感染系ホラー『リング』の貞子がウイルスのように…朝宮運河が語る「90年代Jホラー」の黄金時代

もっと
Recommendations

金の小売価格が史上最高値 初の1グラム1万8000円台に FRBへの“トランプ介入”で金融政策がゆがめられる懸念

金の小売価格が史上初の1グラム1万8000円台に。トランプ介入が影響し…

【速報】今年の近畿地方の梅雨入りは「5月17日」梅雨明けは「6月27日」気象庁が確定値を発表 「観測史上最も早い梅雨入り・梅雨明け」に

今年の各地方での梅雨入り・梅雨明けをめぐる確定値が発表され、近…

北日本 大雨による土砂災害等に厳重警戒

2日(火)は、南鳥島近海の高気圧がほとんど停滞し本州付近に張り出し…

【速報】北海道・渡島地方に「記録的短時間大雨情報」 函館市戸井泊で1時間に102ミリの猛烈な雨 災害警戒 1日17:16時点

気象庁は、1日午後5時16分に「記録的短時間大雨情報」を渡島地方へ発…

セゾンカード特典の「旅行者必携神コスパカード」改悪に「悲痛な叫び」 一方で「よく頑張った方」とも…変更後の内容は?

11月30日から「新制度」にクレディセゾンが、セゾンカードの一部の…

「いびきがうるさくて」同居する伯父の味噌汁に毒を混入させ殺害しようとしたか 男子高校生(18)逮捕 事件後にはJR千葉駅で女性2人にハンマーで暴行か 千葉県警

今年7月、同居する伯父の味噌汁に毒のある植物を混入させ殺害しようと…

【速報】熱中症の疑いで高齢者7人 未成年者2人を含む男女計14人を救急搬送…うち1人重症 5人が中等症 8人は軽症(静岡)

静岡県内では9月1日 午後3時半までに、熱中症の疑いで、高齢者7人、未…

“総裁選前倒し”めぐり駆け引き激化 政府内から約10人が賛成を表明 官邸前では“辞めろデモ”も

自民党の“総裁選前倒し”をめぐり、党の執行部と実施を求める勢力の…

【 穂川果音 】 「オープンしたてのホテルに行くのが好き」熱海の新高級リゾートを満喫 「サウナとプールがあるのも最高」

気象予報士の穂川果音さんが自身のインスタグラムを更新。オープンし…

NHK生放送中に不適切発言、元スタッフの中国人に1100万円賠償命じる判決

ラジオ国際放送などの中国語ニュースでの不適切発言問題を巡り、N…

loading...