１９９９年の創設以来、驚きと感動の舞台を上演してきた熊川哲也率いるバレエ団の記念公演だ。 　ガラ公演と銘打っているが、ありがちな名場面集ではない。 　冒頭から熊川が登場して驚かせた。つり下げられた過去作の衣装を見上げた後、キレのある跳躍や回転を披露した。続いてローラン・プティの「カルメン」寝室のパ・ド・ドゥを岩井優花の脚のラインを際立たせて粋に踊った。 　年代順に制作した舞台を映像や実演で見せる。振付家デビュー作「ウォルフガング」で栗原柊（しゅう）がモーツァルトが作曲する喜びをほとばしらせる姿を軽快に見せた後は、プティの「若者と死」の映像。熊川が演じた画家の焦燥がビシビシ伝わってきた。並べて見ることで若き熊川のすごさと創作への考え方が感じ取れた。 　現役団員にとって映像内の先輩たちはライバルなのだろう。「ドン・キホーテ」を熊川や荒井祐子が力強く踊る映像の後、同作３幕の見せ場に挑んだ梅木那央と吉田周平は勢い余ってよろめくほどの熱演を見せた。 　この舞台の大きな成果は熊川の創造の軌跡が一望できたことだ。見事な構成で見せていて、困難を乗り越えて様々な独創性を獲得しながら歩んだことを再認識できたし、感動も覚えた。「ベートーヴェン　第九」第２楽章は女性たちのアンサンブル。目まぐるしく動く音の粒に驚くほど細かで多彩なステップと振りを施していた。「カルメン」にはプティ版と同じ岩井＝写真＝が出たが、情熱をみなぎらせて妖艶（ようえん）に踊る姿は先人の振り付けと全く違う。 　「クレオパトラ」奴隷のパ・ド・ドゥでは木下乃泉（のい）と金瑛揮（キムヨンフィ）が官能美を漂わせた。「蝶々夫人」花魁（おいらん）道中では“八文字歩き”もあでやかな浅川紫織を囲む遊女たちの扇を持った舞が息をのむほど美しかった。 　印象深かったのは、新制作「眠れる森の美女」。初期から順に見ると熊川が満を持して古典の最高峰の再創造に挑んだことがうかがわれる。ドラマチックな構成になったローズ・アダージオは確かに面白い。 　カーテンコールで熊川は「ジゼル」２幕の衣装で登場した。この姿で演じる若者は恋人の精霊と愛を確かめ合った後、永遠の別れを迎える。その衣装で現れたのは、過去の遺産をリセットして前に進もうとする意志に思えた。４作で優れた表現力を見せた岩井や二つの大役を任された木下ら未来を担う才能が健闘。今後も目が離せそうもない。（編集委員　祐成秀樹） 　——９日、大阪市・フェスティバルホール。