宇宙の解明はどこまで進んでいるのか...現代物理学が到達した「革命的な仮説」

2024年11月28日、大人気の宇宙物理学者野村泰紀先生(カリフォルニア大学バークレー校教授)をゲストにお届けしたYouTube「ブルーバックスチャンネル」全3回が完結しました。 快く出演してくださった野村泰紀先生への感謝を込めて、著書『なぜ宇宙は存在するのか--はじめての現代宇宙論』の関連記事を一挙に公開します! 野村先生、貴重なお話をありがとうございました! (YouTubeブルーバックスチャンネル、「【高校物理「赤点」から東大博士】UCバークレー教授のすごい勉強術」) ------------------------------------------------------------------------------ 「宇宙論」は、ここ100年で非常に目覚ましい発展をとげています。これら直近100年の宇宙論の歩みを、最先端の発展までを含め、宇宙論や素粒子論、量子重力理論などを専門とする著者が、徹底解説。はじめての「宇宙論」として本格的な、そして現代的な宇宙論を知ることができるような1冊になっています。 よく耳にする「ビッグバン宇宙」や「インフレーション宇宙」といった言葉についても理解が進むように詳しく解説しています。さらに、近年理論物理学者の間で急速に受け入れられつつある描像である「マルチバース理論」を紹介します。この最新の描像によれば、私たちが全宇宙だと思っていたものは無数にある「宇宙たち」の一つにすぎず、それら多くの宇宙においては素粒子の種類、性質およびそれを支配する法則、さらには空間の次元に至るまで、多くのことが私たちの宇宙とは異なっているとされるのです。 本記事は、カリフォルニア大学バークレー校教授・バークレー理論物理学センター長を務められる宇宙物理学者野村泰紀先生の著書『なぜ宇宙は存在するのか--はじめての現代宇宙論』を抜粋したものです。 私たちの宇宙の将来 人類の古代から続く宇宙への探究は、16〜17世紀に太陽系モデルを手に入れた後も加速し続け、今では物理学の発展を基に、私たちの宇宙の始まり、またその誕生以前の世界をも議論できるようになってきました。私たちの宇宙は約138億年前に生まれ、私たちの太陽はその中で約46億年前に私たちの天の川銀河の中に生まれた恒星です。 では、私たちの住むこの宇宙の未来はどうなっていくのでしょうか? まず、現在の銀河の速度等の観測から、私たちの銀河系は約40億年後にはアンドロメダ銀河と衝突、合体をして一つの大きな銀河になることがわかっています。また、近傍の他の小さな銀河もこの巨大な銀河にのみ込まれます。しかし、銀河の中の恒星同士の距離は非常に離れているので、この際に恒星同士が衝突することはまずありません。そのため私たちの太陽はこの銀河間の衝突を乗りきると思われますが、それでも今から50億年ほどもすれば燃え尽きて、白色矮星と呼ばれる小さな天体になってしまいます。 一方、私たちの銀河系から十分離れたところにある銀河は巨大銀河に吸収されることなく、宇宙が加速膨張を続けることによりどんどん遠ざかっていくと考えられます。そしてある時点(今から数百億年ほど)で、それら全ての遠ざかる速さが光速を超えることになり、永遠に視界から消えてしまいます。つまり、今から数百億年以降にこの巨大銀河の中に発生した文明が宇宙を観測したとしたら、自分たちが住んでいる銀河以外には何もないという宇宙を見出すはずです。 そして、このはるか後、およそ10²²億年後、この巨大銀河も重力により太陽質量の10¹⁵倍程度の巨大なブラックホールへ崩壊してしまいます(このブラックホールはその巨大な質量を反映して、半径300光年程度とかなり大きいものです)。そしてこれより先、宇宙にはこのブラックホールがのみ込めるものは何もなくなるため、ブラックホールはホーキング放射を通してゆっくりと蒸発していくことになります。 この宇宙は無数にある宇宙の一つに過ぎない ホーキング放射とは、ケンブリッジ大学の故スティーヴン・ホーキング博士により発見された効果のことです。量子力学を考えるとブラックホールも極めてゆっくりではありますが熱的放射をしており、これが続くと最後にはブラックホールは蒸発してなくなってしまいます。 このブラックホールの蒸発には、およそ10¹⁰⁰億年程度もかかります。そしてその後には、宇宙はただ加速膨張を続けるだけの「からっぽ」の空間になってしまいます。より正確には、もしこの空間に観測者がいたとすると、空間は加速膨張に伴う量子力学的効果である絶対温度10⁻³⁰度程度の放射で満たされているように見えることになります(この意味で加速膨張をしているからっぽの空間は、私たちがイメージするからっぽとは少し違います)。 もし私たちの宇宙が唯一無二の存在であれば、宇宙はこのからっぽの状態に永久にとどまることになるでしょう。しかし、マルチバース理論によれば、私たちの宇宙はどこかの時点で別の宇宙に崩壊してしまいます。つまり、他の泡宇宙が生まれ、私たちの宇宙はそれにのみ込まれてしまうのです。 この崩壊が今まで述べてきた過程のどの時点で起こるのかは、現在の理論では計算できません。そして、それがどんな宇宙なのかも現在の理論ではわかりません。しかも、もしこれを計算できる完全な理論が完成したとしても、「次の」宇宙がどんなものになるのかは、量子力学的な確率の意味でしかわからないのです。 マルチバース理論は、私たちが全宇宙と思っていたものが、無数の泡宇宙の中のたった一つにすぎないと教えてくれます。これは、たとえば私が(あなたも)祖先から子孫へと延々と続く流れの中に存在するたった一人の人間にすぎないようなものです。タンパク質のような小さな分子も、太陽のような恒星も、生まれては消えていきます。そして、宇宙もまたそうであるようなのです。 マルチバースは、現代物理学が到達した極めて「革命的」な描像ではありますが、諸行無常に慣れ親しんだ私たち日本人にとっては、もしかしたらより自然なものに感じられるかもしれません。 *      *      * 初回記事<まさに「弘法も筆の誤り」…「稀代の天才」アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」!>では、宇宙の膨張について詳しく解説しています。 まさに「弘法も筆の誤り」…《稀代の天才》アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」

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